音のはなし
つくられた静かな環境には、いいことがない
なぜ自閉症の子どもたちは、学校の中を歩き回ったり、いろんなことをするのか。じつは自閉症というのは、先進国ほど起きる確率が高いという調査結果が出ていて、でも、その自閉症といわれる子どものかなりの部分は、ほんとは病気なんかじゃない、ともいわれはじめています。
学校は、静かな環境がいいと思っています。音楽室は静かな教室で研音し、音楽だけを聴くようにする。算数は算数だけに集中できるよう、すごく静かな部屋で勉強する。でも、まわりの音を断ち切って、静かな空間に閉じ込めるということは、ほんらいの環境ではない。音がないと、小さな音がやたらと耳についてじゃまになります。でも、たくさんのいろいろな音が合わさってくると、そこはバックグラウンドノイズになる。するとジャングルの音と同じことが起きて、自己のノイズキャンセルがはたらきます。
映画やドラマで、心音がドクン、ドクンと鳴っているような子どものシーンを見たことあるでしょ。あれは演出ではなく、実際に起きている現象。自閉症の子どもたちが、静かな学校で、落ち着かなくなるという現象ととてもよく似ています。他人との距離の取り方も、自分の好きなように保たれなくなる。まるでノイズキャンセルができなくなって、不安になっていくのです。
そんなことを踏まえて、僕らが実現しようとしている学校づくりのプロジェクト、『瀬戸SOLAN小学校』があります。ここは教室の仕切りをなくし、全部の部屋を繋げている。隣りあうクラスの授業の声や、周囲の音もどんどん耳に入ってきます。でも、たくさんの音の中にいると、むしろたくさんの音は気にならなくなってくる。
人間は静かな場所がいいと思うけど、じつはそうじゃないのです。まわりの音がいろいろあって、それでうまく成立している。そんな環境の中にいたら、生徒たちもずいぶん変わってくるはずだと思っています。学校というのは、勉強するために静穏な環境を整えようとしますが、そうではないと言う話です。