しつらえのはなし②
『屋根の家』って屋根の上に何もないようで、じつは天窓がたくさんあって隠れることができます。テーブルと椅子もあってごはんが食べられるし、ちょっとした壁があるからプライバシーも保てる。流し台やシャワーもついている、いろんな仕掛けがあるんです。これを「しつらえ」と言うんですけど、建物はこれが大事です。
このしつらえのことを外国人に説明する時、僕は刺し身の話をします。19世紀頃に描かれた絵に、日本人の芸者が大きな口をあけ、生魚を食べようとしている描写があって、まるでペリカンが魚一匹を飲み込もうという漫画的な絵、でも実際の生魚の食べ方は、魚を包丁で下ろし、薄く切って食べるわけです。これを刺し身と呼んでいますが、その薄く切るためには包丁さばきの技量がとても必要になってくる。魚の大きさや種類によって使う包丁は違うし、下ろし方の方法も違ってくる。
事務所のそばに會という名前の鮨屋があります。その親方が目の前で魚を下ろし、薄く切ったり厚く切ったり色んな刺身出してくれました。するとおんなじ魚なのに味が全然違うんですよねー。包丁目を入れたり、ちょっと丸めて盛ったりするだけでも変わってくる、添える薬味や、料理を出すタイミング、そういうものも全部関係してくるんです。ただの切り身じゃないかと思うかもしれないけど、そんな単純なものではないんです。ただ巻くだけのカリフォルニアロールなら俺でもできるぞ、という人もいるかもしれないけど、プロの料理人が作ったものとは、やはり、ぜんぜん違うでき上がりになるはずです。
建築も同じで、屋根があればいいんだろう、俺にも屋根の家ができるぞ。確かに建物はできるけど、違うんですよ。どういう場所で、どういう方角で、どのくらい傾ければいいか。このしつらえによって、その心地よさは大いに違ってくる。
由比
どう手を加えるか。加えすぎてもいけないし、加えなさ過ぎてもいけない。その加減によって、いい塩梅になっていく。料理と建築って、すごい似ているなって思います。