しつらえのはなし①
貴晴
僕らの建築って、「手塚の一発芸」とみんなが言うんですよ。「屋根の上にのっければ、楽しいんだろ」「ああ、また楕円」とか。今度は「外に透かし彫りをはじめたぞ」とか、でも、その一つのものを突き詰めて形にしていくことはじつはとても難しいことで。
「おいしい」とみんなから指示される料理も、そういうものだと思っていて、銀だらの西京漬けって、メチャクチャうまいですよね。シンプルに焼くだけですが、あれを作るには、ものすごい手間をかけないとできない。うちで作ると3日くらいかかって大変なんだけど、でも手作りしたものは、市販のものと比べても断然にうまい。
それと同じように屋根の家をつくるにしても、屋根の家に人が上がれるようにするなら何でもいいんですよ。前に言われたことは、「屋根の上に人をのっけるなら、野っぱらと同じじゃないか」「外じゃないか」って。違うんですよ、何が違うかって、人間は、外の環境で暮らせるようにできていないんです。
あのゴルゴ13でも、葉っぱは食べられないでしょ。猿は木の芽や葉っぱを食べて生きられるけど、人間はサバイバル能力がメチャクチャ低くて、ジャングルで葉っぱを食べては生き延びられない。最強のスナイパーで、どんなところでもサバイバルできるとゴルゴ13でも無理。人間は自然をそのまま享受できず、いかに弱い存在か。服が濡れたら寒くて死んじゃうかもしれないし、何も持たずに原野やジャングルに人は住めなくて、だからしつらえが必要になるんです。