地域のプライド
南三陸町にある『あさひ幼稚園』の話をしましょうか。
東日本大震災の津波により、南三陸地方は広い範囲が海水につかりました。海水が地面に半日以上たまっていると塩が浸透して木や植物は浸透圧で水が吸えなくなり、やがては立ち枯れしてしまう。その立ち枯れた地元の木を使ってあさひ幼稚園を建て直すことになったんですが、その木というのは樹齢400年ほどの巨木で、ただでさえ重たいうえに水分を含み、傷んでいたりもするので作業が大変でした。いち早く復興させたいという時に、労力と手間をかけてまでやるのは「地域のプライド」があるからです。
地域がどうやって成り立っているかって知っていますか。はっきり言ってお金を稼ぎたいのであれば南三陸にいる必要はぜんぜんない。東京の大学を出て、東京の企業で働くほうが仕事は選べるし、お金も稼げるでしょう。そこで暮らすのは地域に誇りがあるからです。
南三陸町には大雄寺(だいおうじ)という古く歴史あるお寺があって、その参道には樹齢400年の杉並木が続いていました。地元の人にとってはなじみのある風景で、それを目にするとほっとして故郷に帰って来たなと思うんだそうです。そのいつも目にしていた杉並木が、津波の被害によってガラリと変わってしまった。これまでも津波はきていたけど、あのレベルのものはなかった。そんな津波がくるような場所に建物をなぜ建てるのかって思うかもしれないけど、海岸沿いというのはとても豊かなところなんです。南三陸に限らず、人類は大昔から川岸や海岸沿いの水際に住んできた。時には大津波がきて命までも奪っていくような過酷な環境ではあるけど、豊潤な海の恩恵を受けながら生きてきました。危ないからという理由で切ってしまうというのはある意味、その地で生きてきたプライドの根も切ってしまうということなる。それで、立ち枯れした杉の大木を活用して幼稚園を再建しょうとなったわけです。