ピアノの話
ピアノは、いまや僕の人生から切り離せないもののひとつになっています。自宅にいる時は、ほぼいつもピアノを弾いていて、だけど、そんなうまくはないですよ。4歳半からピアノをはじめて、いろんな事情が重なって小学校高学年でやめてしまい、息子がピアノを習うのをきっかけに僕も再開し、今は僕が一番熱心に弾いている感じ。
僕が憧れているのは、自由な音楽。というのも子どもの頃からずっとクラッシック一筋でやってきたので、音をまちがえることに対しての恐怖心があって、いまさら自由には弾けなくて。今度、ライブハウスを設計することになり、そのオーナーでもあるミュージシャンの人と話をしていたら、ジャズの世界では音をまちがえるという概念がそもそもないと聞いて。違う音を選んだだけで、すべての音に美学があるから、それでいいんだと。その自由さに憧れ、僕もこれからは自由に弾きたいなと思っているけど、その殻がなかなか破れなくて。
ピアノを弾くことは僕の日常で、いろんな意味でのベースになっています。物事を考える時も、ピアノを弾きながら考えているし、常にピアノの音が頭の中に流れているような感覚。
「どんな建築をつくりたいですか?」「好きな建築家は誰ですか?」と聞かれたりすると、師匠のリチャード・ロジャースと答えるけど、絶対的にすごい人はショパンだなって思っていて、それ、答えになっていないって言われそうだけど、それくらい僕はショパンに狂信的なんです。
ベートヴェン、リスト、ブラームス、ラベルといった作曲家の作品もあるけど、ぐるぐるとまわって結局はショパンに戻てきてしまう。なぜかってショパンは調和がとれているから。ベートヴェンの田園を聴いていていい気持になるけど、突然、山の中に放り出され、あとは自分一人で帰りなさいみたいなところがあって、最後までいきつけないんです。ショパンは、ちゃんといきつくところまでいけて完璧。
建築も、なかなか自分の思い通りにいかないところが多々あってむずかしいですよ。気持ちのいい吹き抜けをつくりたいと思っても、高さ6m以上はダメ。二階建てで避難階の直上階にくっついてしまうと三層構造扱いになるからダメ、そんなことをピアノを弾きながら思考すると頭の中がうまく整理されていくんです。
ピアノを弾いている時は、無意識に手が動いて弾いている自分と、頭で思考しながら弾いている自分がいて。逆に、二人の自分が一緒になると「あれ、次のキーってなんだっけ?」って手が止まっちゃう。空気を吸う時、無意識に呼吸をしながら、別のことをやっているでしょ。それと同じ感覚で、僕はピアノを弾いています。この頃はピアノを触らないと精神が持たない感じになってきてしまって、たぶん、家族はうるさくて仕方ないんじゃないかな・・・。