敏感な舌

貴晴
僕の料理はアカデミックで、たとえばステーキを焼くにしても、56℃くらいでないといけないとか、二度焼いてとか、いろいろうるさいわけですよ。そういえば結婚した時、由比はステーキが嫌いだったんだよね。

由比
ガチガチの肉しか食べたことなくて。

貴晴
好き嫌いも多くて、嫌いなものは全部こっちにくるから大変だった。それで少しずつ苦手なものも食べられるようになって、料理もするようになった。娘に作るお弁当が好評で「ぶなちゃんのママは、レストランを開くといいよね」と言われるくらいの腕になったもんね。

由比
我ながら、その成長ぶりはすごいって思う。

貴晴
その変わっていく過程がおもしろかった。結婚してもあまり作らないからほおっておいたけど、それから結婚して10年目に娘が生まれ、料理をするようになっていった。娘も、好き嫌いが多くて最初は大変だったね。でも京都の吉兆に招待されて小さい娘も連れていったら、出てきたものを全部食べたから、これは好き嫌いじゃなく、料理の質の問題だって気がついて。そんなことがあって由比は一生懸命を作るようになっていったんだよね。それでうちはものすごいデリケートな料理をしているから、娘は味にメチャクチャうるさい人間になって。

由比
離乳食の時からすでに味に対する反応が鋭くて、まずいとなると絶対食べなかったもんね。ご飯の炊き方がいつもと違うと「違う!」って言うし、ご飯は白い素のままのご飯がおいしいと言うし。おかずにやたらソースをかけたりするのも嫌いだし。

貴晴
原理主義。娘の卵かけご飯の話をすると、トンカツの揚げ玉を取っておいて、それをかけて、ちょっとだけソース、しょうゆをかけて食べる、これがおいしいんだって。白身を泡立てでフワフワにして黄身をのっけるとか、うるさい。食べ方として、これが正しいかどうかは別だけど。