便利になることで、失われていくこと

貴晴
便利になることで、大事なことが失われていくこともたくさんあると思う。昔は鰹節を削っていたけど、今は家庭で、ほとんどやらなくなっているでしょ。鰹節を削ることが、みんな大変なことだと思っているけど、じつは1分もかからない。今朝も、鰹節を削ってみそ汁を作ったけど。というのも僕は、削ってある袋入りの削り節を使うことに抵抗があって、一度封を切ったら酸化して匂うから、うちではその都度、削って使うようにしていて、「金がないから、鰹節なんか買えないよ」と言う人がいるかもしれないけど、鰹節1本あれば何百食も作れて、かなり経済的。顆粒だしを買うほうが、ずっと高くつくはず。
あと、みそを溶くことも大変だと思っている人もいるみたいだけど、箸でほぐしてやるとすぐに溶けていく。ついでに言うと、みそ汁には生みそを使うことが大事で、ほんとは、その生みそは家で作りたいと僕は思っていて。「今年はうまくいかなかった」と由比がある時つぶやいて、我が家のみそ造りはそこでやめちゃったけど。手作りのみそって圧倒的に風味がよくて、うまいから。そういうことを子どもは見ていて、これが文化として次の世代につながっていくから大事なことだよね。

由比
人はおいしいものを食べれば、とりあえず幸せな気持ちになれる、ということもあるよね。

貴晴
虐待は貧困の連鎖と言われているけど、お母さんは自分の子どもを愛したいけど、どうやって可愛がっていいかわからなくて虐待しちゃうみたいなところがあるらしく、でも、ほんとは簡単なことで、子どもにごはんを作ってあげる、ただそれだけでいいと思う。
僕らは母子寮なんかの仕事も手掛けていて、そこで思ったのは、お母さんたちに朝ごはんの作り方を教えてあげればいいんじゃないかって。案外、お母さんたちは作り方を知らなくて、誰にも教わっていないから当然なのかもしれない。だから、そういう場をつくってあげたりするといいのかも。
昔、家庭であたり前にやっていたことが、手がかかるから便利なほうに流れてしまって伝えられていないことが多いように思う。汁にみそを溶けば、みそ汁が簡単にできるけど、それさえもわからないくらい貧しい人をつくってしまう社会がまずいんだと思う。料理を作って一緒に食べれば、親と子どもの絆が自然にできて、そういう身近なことから変わっていかないと、社会はよくなっていかないと思うよね。