アウトドアのすすめ
貴晴
東京では暖房をしなくても、けっこう寒さに耐えられるのかなって。もちろんスカンジナビア半島みたいな寒い所なら大変ですよ。マイナス30、40℃では死んじゃったりしますから。だけど、よっぽどのことがないと、案外、人間は大丈夫なんですよ。スキーもするし。
そうそう、スカンジナビア半島のどの国だったかは忘れたけど、自分の国でやっている習慣を、よその国でやったら逮捕されちゃった夫婦がいるという話があって。むこうは幼児の肺を強くするために、外に寝かせるんですよ。マイナス20℃の中、あったかっくしてベビーカーに入れて。子どもはスヤスヤと寝ている。アメリカでそれをやったら、虐待だって逮捕されちゃった。違うんだよ、これにはそういう意味があるんだって、説明してわかってもらうのが大変だったという。
ノルウエーにTUNという、古い村の単位があり、英語のTOWNの語源だっていわれています。イギリスには、バイキングの人たちが入っているから、言葉も入ってきちゃった。
小さな村なんですよ。おもしろいのは、冬の部屋というのがある。建物の大きさはそれなりなんだけど、いよいよ寒くなったら、その家の中の特別な小さな部屋に閉じこもるんだって。マイナス40℃だと、家全体を暖めても仕方ないから。そこにみんなが集まって、火を焚いてあたたまる。狭いけど、それはそれで、けっこう楽しいんだそうです。
そんなに寒いのに、なんでスカンジナビア半島に人が住んでいるのかっていえば、じつはとても気持ちのいい季節が一年の半分以上あって、春先から夏まで、すごい気持ちがいいと。夏になると、みんな外に出て自然を満喫してたのしむ。だから、ちょっとだけ工夫をすればいいんだと。
日本では「家は夏を見てつくれ」と言われていました、冷房がなかった時代はね。そして「夏を持って棟とすべし」と。夏、いかに涼しく風通しをよくするかが大事かという話で。
高気密、高断熱というけど、東京の場合、気密性にそんなに神経質にならなくてもいいと思うんです。断熱は寒いから大事だと思うけど、寒い時は服を着ればいい。高気密と高断熱を、夏も冬もと考えると一年じゅう、宇宙服を着るようなもんです。夏は暑いからクーラーをつけましょう、ではなく服を脱げばいい。そういう、ごくあたり前の感覚が失われています。夏も冬も、着せ替えればいいんですよ。
昔の家は、季節で建具の入れ替えをしていたでしょ。夏は戸袋に、簀戸をしまい込んで簾を出したり、冬は障子戸にしたり。すると、ぜんぜん別の家になる。父の実家「手塚商店」がそうでした。僕はそれが、すごくおもしろいなと子どもの頃、見ていた記憶があって。動物の毛が、冬夏で生え変わるように、建物もそうやって変わっていたんですよね。
――昔の人の知恵はすごいですよね。
今は自分が努力もせずに、全部建築にやらせようとするから、ややこしいことになってしまって。豊かになったわけじゃなく、どんどん貧しくなっている。
地球環境のためによくないし、自分たちにもよくない。寒い時は、もっと寒いところに行く。暑い時は、もっと暑い海辺に行く。そうすると、もっともっと、地球のためにいい生活ができると。
由比
アウトドアをもっと楽しむというか、以前より、日本はよくなってきた感じがします。パリは昔からオープンカフェでお茶を飲んでいる人がいっぱいいたけど、日本も、そういうお店が増えて、外でお茶を楽しむ人が増えた。やっぱり、外が気持ちいいって、単純にわかってきたのかなって。
貴晴
コロナ禍になってよかったことのひとつは、そこだね。外にテーブルと椅子を出しても、保健所は何も言わなくなった。特例措置だと言ってね。これが常態化するといいなと思っていて、冷暖房のためによくないと言うけど、冷房、暖房も使わない過ごし方って、どういうことなんだろうって考えるきっかけになればいいなって。
やっぱり、外でご飯を食べると気持ちがいいとか、そういうのはあたり前に感じることが、人間の中にいっぱい入っているんです。持って生まれた感覚というのか、本能的に刻まれている。説明がしにくいことが、いっぱいあるんです。
わざわざ荷物担いでいって、なぜ、キャンプをするんだろう。外でおにぎりを、なぜ、食べたがるんだろう。気持ちのいい椅子じゃなく、硬い岩の上に座って。汗流して、山登って。雨に濡れたりなんかして。断熱性のことをいっている人がテント担いで、山の中にテント張って、シュラフの中で寝るわけですよ。暖房なんかしたら燃えちゃいますよ。人間というのは、どういうものなのかを理解しないと、これから先の人類の生き方をまちがえちゃうかなって。
つい、守ることばかり考えちゃう。そんなに人間は弱くはないよ、と思う。