お弁当
貴晴
最近、体を壊す学生が多くて、僕がよく言っているのは、自分で料理をつくりなさいと。コンビニの惣菜がありがたいこともあるけど、やっぱり、人間は違うよねって。うちはごはんを相当、真面目につくっていますよ。化学調味料は一切禁止。可能な限り、かつお節を削る。由比は最初、そういうことを知らなかったよね。
由比
うちの母は、キューブのブイヨンとか、だしの素を使っている人で、だから料理って、そういうものかなって思っていて、結婚後、しばらくしたらケンカした。そんなものを食べたら、体を壊すって言われて。
貴晴
それで、僕がいくら言ってもそうならないから、自分でつくったりして。ところが、子どもができた頃から、由比がすごい変わっていった。
由比
そのきっかけが、娘の離乳食で。保育ママさんのところに、預けるようになって、保育ママさんから、お弁当をあまり食べないって言われて。その時、保育ママさんの友だちが「まずいんじゃないの」って。冗談でね。
貴晴
それを聞いて、僕が奮起してお品書き付きのフルコースの離乳食をつくったんだよね。そしたら全部残さずに食べて、やっぱり、これは味だってね。それから講演会だったかな、京都に行った時に、吉兆で接待してもらう機会があって、好き嫌いのはげしい娘が、吉兆の料理はすべて食べた。これは、好き嫌いじゃなく、質の問題だって。それから由比が、一生懸命つくるようになっていった。
由比
小学校から、毎日、娘のお弁当をつくるようになって「ぶなちゃんのママは、レストランを開くといいよ」と言われるまでになったから。そのお弁当が友達に好評で、ちょっと多めに入れてって、娘に言われる。友達がみんな欲しがるからあげるんだって。
それでね、当時、私立小学校の受験で、お弁当の入試にあったんです。親がつくったお弁当を、子どもが食べる、それを先生が見るとういもので。だから受験塾で、どういうお弁当がいいの、悪いのを教わるわけですよ。
貴晴
で、僕がその受験の日のお弁当をつくって、子どもがお弁当箱をパカッと開けたら、先生が「わあっ!」と。「これ、ママがつくってくれたの?」「パパ!」うちの娘は正直にそう答えた。そのあと、校長先生と教頭先生の面接があって「お父さんが、お弁当をつくったんですか?」って。で、話が盛り上がって、それで受験をパスしたんじゃないかと思ったんだけど。
それで小学6年生の時、お昼の時間に、校内放送で校長先生の話があったんだって。校長先生が話したのは「みなさんに、好きな食べ物を書いてくださいというお願いをしたら、カレーとか、ハンバーグとか、いちごとか書いてくれました。その中に、一人だけ違う書き方をした人がいました。手塚ぶなさんは、パパのつくったハンバーグと書きました」と。これを聞いて、すごい、うれしかったんだけど、これって、すごい大事な教育を学校はしてくれているなって。いい学校でよかったなと。誰々がつくったお弁当とかね、じつは由比のほうが、毎日つくっているわけだけど、そういう時に「うちのママがつくってくるお弁当」って、ものすごく大切なことだと思うんですよ。
もちろん、みんなで同じものを一緒に食べる給食にも、大事なことがあると思うんだけど。