ブレードランナー
貴晴
『ブレードランナー』という映画がありますけど、あの映像、きれいなもんじゃないですよ。『えんとつの町プペル』も、あまりきれいじゃない。だけど、じつはそこに人は懐かしさを感じる。作者の意図でそういうものをつくろうとしたんです、もちろん。
『フクラス』の屋上は円盤みたいなのがくっついたり、鉄骨がはみ出したりしています。「手塚、お前、ちゃんと仕事しろよ!」「ぜんぜんしていませんー、いいかげんです」と言って、そのいい加減なところが、じつはものすごく大事で。
アトリュウムのかどには、アーバンバルコニーと呼ばれるガラスのアトリュウムがあります。そのアトリウムは劇場の舞台の上のフライタワーのようにしたくて。そして格子のバトンがあって、いろんなものをぶら下げられる。たとえばアートな作品を下げたり、いろんなことが起きてもいいようにと。
「きれいにするんじゃないんだよ! おもしろいいのが、いいんだ」って言いました。
外壁には鉄骨がいっぱい出ている。「これは何?」「これから看板をいっぱいつけるんですよ」「看板つけちゃうの?」「いや、看板がいっぱいつくから渋谷なんじゃないですか。だからジャンジャンつけて。ブレードランナーに出てくる、芸者ガールみたいな、でっかい看板がいいなあ」と言ったら、みんながあきれていました。それが、僕の好きな渋谷なんです。
渋谷のスクランブル交差点があるでしょ。日本というと、あれを思い浮かべる人が多いみたいで、あれがけっこう、みんな好き。あれは建築家一人のデザインでは実現できない。いろいろな人が関わるから、おもしろいものができてくる。だから民主主義ですよね。
おもしろい土地って、たぶん、ずっと人の歴史が重なっていくんだと思うんです。できたら、都市がこうあってほしいなと思います、理想はね。
ぜひ、『フクラス』の屋上に行ってほしいなと思います。見下ろすと江戸の町が見える。渋谷のおもしろさは、谷があって、昔の道が残っていて、五差路になっているところにある。グチャグチャで、一度整理しようとしたけど、できなかった。でも、それがよかったんだと思います。
渋谷ってわかりにくいんですよ。そのわかりにくさが逆にいい。全部きれいにしないで、ベタベタ貼っていって上塗りで、わかりにくい渋谷ができる。でも時間が経つと、わかりにくいものがわかるようになっていく。最初、渋谷駅の造成のできが悪いなと思っていたけど、近道もあったりして、遠くないんだなって。だけど、わかりにくいからグルグルするんです。でも、人が迷うぐらいの町がむしろいいと思っていて。迷わない道なんて、おもしろくないですよ。
由比
イタリアの町とかもグチャグチャで、どこに行くかわからないような感じになっています。はみ出ていたり、人がこうしたいっていう感情が、そのまま出ている感じ。そういうのが渋谷にもあってほしいなって。