灯り
『屋根の家』を設計している時、照明デザイナーの角舘まさひでさんが、家の照明を裸電球にしょうと、施主を説得する際に語っていたことが、いまでも印象に残っています。
「一番きれいな灯りはなんだか知っている? 夜景なんだよ。イルミネーションをいくら工夫をこらしても、みんな飽きちゃうんだよ。飛行機の窓から灯りを見たり、高台から町の夜景を見たりすると、きれいだなって思うでしょ。なんであれを見た時、きれいだなって思うかって、その灯りに懐かしさを感じるからだよ。だから意味があるんだよ」
たとえば黄色い光が動いていたら、その光は車のライトで、デート中なのかもしれない。火の光がポツンと光っていたら、おばあちゃんが孫にカレーを作っているのかもしれない。それから夜遅くまでお父さんが働いている会社の光かもしれない。家族団らんの家の光かもしれない。そういう光を見て、そこに人がいるんだなって想像したり、ほっとしたり、懐かしいと感じたりする人もいるかもしれない。人間の感情というのは、そういうものなんです。
SF映画を見ても、じつはSFって夜のシーンが多いんです。いろいろな光が写って、そこにいろいろなライフが見えるから。もし、これが全部同じ光だと、そういうふうには見えなくて、人ってみんなバラバラのことをするから、そこに豊かさが生じるんです。
『フクラス』の照明も、いろいろな照明の光にして、一つの建物に見えないようにしました。ふつうは、照明の色は全体を統一をしますが、あえて『フクラス』はバラバラに。コーヒーショップ、バナナジュースの店、和食屋といろいろな店があるように、照明の光も店ごとに全部違い、オフィスも違う光の照明です。「違う光がたくさんあって、灯りというのは、よくなるんだよ」って、角舘さんから聞いた話をずっと言っているうちに、僕が言っているのか、角舘さんが言っているのか、わからなくなっちゃって。その灯りの多様性を表現したくて。要は建築じゃなく、町をつくりかったんです、僕たちは。